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組織免疫寛容・恒常性導入による
自己免疫・炎症性疾患治療法開発



研究代表者:大阪大学・医学系研究科・教授

竹田 潔(たけだ きよし)



研究の目的と意義

免疫系異常による疾患の克服へ!

外部の病原体等から人の身体を守る免疫系は、アクセルである活性化メカニズムとブレーキである抑制メカニズムのバランスをうまく調節することで機能している。しかし、近年はこの相反するメカニズムの調和がとれず、過剰な活性化メカニズム、あるいは微弱な抑制メカニズムによる異常な免疫状態となることによる疾患が増加している。本国際共同研究では、最先端技術を用いた応用研究・異分野研究を展開し、ヒト免疫機構を解明し、ひいては、活性化と抑制のバランスを取り戻すことにより、現在において治療困難であるヒト自己免疫・炎症性疾患に対する革新的治療法の開発を行う。

最先端技術により解明するヒトの免疫機構

これまでの詳細な免疫機構の解明は、マウスを用いて行われてきた。しかし、ヒトの免疫機構は必ずしもマウスと同一ではない。ヒト疾患の克服にはヒト由来試料を用いる必要があるが、これまでの実験技術ではヒトから提供される少量の試料では解析を行うことは不可能であった。近年急速に進歩した次世代シーケンサー技術を用いた単一細胞解析技術およびインフォマティクスによる解析技術により少量のヒト由来試料でも十分な解析が行えるようになった。従って今、ヒト免疫システムを支えるメカニズム研究、それに基づいた治療法開発が、待望されている。本研究では、イメージング技術等の異分野融合研究を進めることで新規メカニズムを解明し、さらにヒト疾患治療法の開発を国際的な研究ネットワークを用いて強く推進する

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図1 本研究で推進する5つの研究プログラム

国際共同研究体制

  • 竹田 潔 (大阪大学)
  • 坂口 志文(大阪大学)
  • 黒﨑 知博(大阪大学)
  • 石井 優(大阪大学)
  • 茂呂 和世(大阪大学)
  • Dylan Dodd (Stanford University, USA)
  • Ye Oo (University of Birmingham, UK)
  • Claudia Mauri (University College London, UK)
  • Marc Bajenoff (Université d’Aix-Marseille, France)
  • David Withers (University of Birmingham, UK)

日本の基礎免疫学研究者と海外の臨床免疫学研究者による国際研究ネットワークによる共同研究推進

日本側研究者は世界トップレベルの基礎免疫学研究レベルを誇る大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)に所属する基礎研究者であり、主に細胞やマウスなどを用いて研究を行っている。研究代表者である竹田潔は、腸内細菌による免疫制御にこれまでも著しい貢献があり、IFReC拠点長として多くの国際研究機関との連携をリードしている。研究グループには制御性T細胞の発見者でありこの分野の世界的権威である坂口志文、メモリーB細胞の先駆的研究者である黒崎知博、新規イメージング法を用いて病的骨破壊細胞を発見した石井優、および自然リンパ球を発見しその機能解明に貢献する茂呂和世が参加している。一方、海外研究者は実際に免疫異常による疾患に苦しむ患者を対象として極めて優れた研究実績をもつ臨床研究者、および日本側研究者とは異なる視点で研究を進める微生物学あるいは基礎免疫学研究者である。
本研究では、このような学際的研究を通じて、臨床研究者から患者由来試料の提供を受け、基礎研究者がこれまで実施不可能であった詳細な解析を行う。その解析結果をマウスを用いた実験等を通じて検証し、疾患に関与するヒト免疫機構を明らかにし、それを臨床研究に役立てる。

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図2 本研究を可能とする大阪大学IFReCを中心とする国際研究ネットワーク

人材育成計画

日本側研究者では、世界的に優れた基礎研究実績を有する5チームに所属する17名の若手研究者が参画する。これらの若手研究者が次世代の免疫学を担う研究者となるには、多様なアイデア・技術に直接触れることで研究の幅を広げ、多くの人的ネットワークを形成することが必要である。これには海外での研究経験を積むことが望ましく、本研究課題の実施にあたり連携する海外研究機関に長期的に派遣する。日本の所属研究機関と海外連携機関のそれぞれの得意分野や技術の両方を取得することによって、唯一無二の研究者として育成する。これにより、若手研究者にとってはキャリア形成の上で大きなアドバンテージとなる。
研究においては、本研究課題に関連する独自研究の実施を推奨し、本研究での研究費の配分を行い、また、積極的な外部資金獲得を推奨し支援を行う。若手研究者を加えた研究グループのミーティングを半年に一度開催し、若手研究者の研究進捗報告を行いシニア研究者によるメンタリングを行う。特に博士研究員に対しては、その自立を促す研究マネジメントの視点を加えたメンタリングを行う。
IFReCではInternational School on Advanced Immunologyを開催している。これは極めて優秀な学生が参加することから、同世代若手研究者の将来にわたる人的ネットワーク構築に極めて有用であるため、積極的な参加を求める。その他のIFReCが提供する渡航費支援、優秀な若手研究者の採用プログラム、独立研究者への登用プログラムを通じて本研究課題における若手研究者の育成を図る。

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図3 世界の優秀な若手研究者が集結する International School on Advanced Immunology