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小腸の免疫応答に重要な細胞を発見 (審良拠点長・植松智助教らが Nature Immunology に掲載)

大阪大学免疫学フロンティア研究センター 審良静男拠点長、植松智助教らは、小腸から侵入する病原菌を監視して防御する細胞を突き止めました。

この免疫細胞は、小腸の粘膜内部に存在し、腸内の病原菌が粘膜から入り込もうとするとTLR5というタンパク質が菌のべん毛を検知し、菌を攻撃する免疫システムを働かせることが分かりました。さらに研究チームはネズミの実験で、この免疫細胞がTLR5によって病原菌をキャッチすると、病原菌防御に重要な抗体を作る細胞や病原菌への攻撃に重要なヘルパーT細胞のTH1細胞やTH-17細胞を生み出すことを明らかにしました。

これらの研究成果は感染症や慢性の炎症性腸炎などの治療の足がかりになると考えられます。本研究は、2008年5月31日(米国時間)に、米国科学雑誌「Nature Immunology」電子版に掲載されるとともに日経産業新聞(6月2日)で報道されました。

<研究の背景>

腸管は、食べ物や腸内細菌に絶えずさらされています。腸の免疫システムは、食べ物や腸内細菌に対しては攻撃しませんが、侵入してきた病原体を認識して排除することができます。病原体を攻撃するか否かの決定をするのが樹状細胞注1)と呼ばれる細胞です。腸管膜リンパ節やパイエル板の樹状細胞は比較的よく研究されており、いくつかの免疫を抑制する樹状細胞が同定されました。ところが、腸の実質である粘膜固有層の樹状細胞に関してはこれまで殆ど解析されてきませんでした。私たちは最近、粘膜固有層CD11c+細胞が、Toll-like receptor注2)5 (TLR5) を発現しており、そのリガンドであるフラジェリン注3)の刺激に反応して自然免疫注4)応答を誘導できることを明らかにしました。しかしながら、これらの細胞がどのように獲得免疫注5)を活性化し、全身の免疫反応を誘導するかは全く分かっていませんでした。

<研究内容>

今回、マウス小腸粘膜固有層CD11c+細胞は、4つの細胞群に分かれ、CD11chighCD11bhighの樹状細胞がTLR5を特異的に発現していることが明らかになりました。この樹状細胞は、フラジェリンの刺激によってB細胞をIgA注6)産生形質細胞に分化させました。この分化過程には、腸管関連リンパ組織を必要としませんでした。また、T細胞に働きかけ、フラジェリンの刺激に反応して抗原特異的なTH-17細胞注7)TH1注8)細胞を誘導しました。この樹状細胞はレチノイン酸を産生し、濃度依存的にIgA産生細胞やTH-17細胞の誘導を行うことが明らかになりました。CD11chighCD11bhighの樹状細胞は、TLRの刺激を介して局所的なIgA産生と全身的なTH反応を誘導することによって、細菌に対する防御を行うことが分かりました。

<今後の展開>

TH-17細胞は最近同定された細胞で、自己免疫疾患の発症と密接に関係していると考えられています。今回、CD11chighCD11bhigh樹状細胞がTH-17細胞を誘導することが明らかになりました。今後、腸管の自己免疫疾患であるクローン病などの難治性の炎症性腸疾患の発症に、CD11chighCD11bhigh樹状細胞がどのように関わるか詳細な解析が期待されます。また、CD11chighCD11bhigh樹状細胞は、TH1細胞とIgA 産生細胞を強力に誘導したので、今後、経口粘膜ワクチンや癌免疫療法をよい標的細胞となることが考えられます。

注1)樹状細胞(dendritic cell):
1973年にロックフェラー大学のスタインマン博士らによって発見された細胞で、突起を四方八方に突き出した細胞です。抗原提示の専門家で、自分が取り込んだ抗原を「こんな物質があるよ」と免疫系の細胞に教える、生体防御にとってきわめて重要な細胞です。

注2)Toll-like receptor(TLR):
主に免疫細胞であるマクロファージや樹状細胞、B細胞などに発現するタンパク質で、病原体に特異的な構造を持つタンパク質、脂質、核酸などを認識し免疫細胞を活性化します。TLR1からTLR13まで存在し、TLRによって活性化された細胞では病原体の貪食、排除が促進され、炎症性サイトカイン、インターフェロンなどを産生し、他の細胞に危険信号を与えたり、T細胞などによる獲得免疫系への橋渡しをしています。

注3)フラジェリン:
細菌のべん毛を構成するタンパク質の一種で、TLR5はフラジェリンの単量体を認識します。

注4)自然免疫:
病原体感染初期の感染防御を担う免疫機構。以前は原始的で特異性の無いものと考えられてきましたが、最近、Toll-like receptorの発見、その役割の解析により、自然免疫系が病原体を特異的に認識すること、病原体に適応した反応を引き起こすこと、また感染後期の獲得免疫系の活性化にも重要な役割を果たしていることが明らかとなってきました。

注5)獲得免疫:
病原体感染後期の抗原特異的な免疫機構。長期にわたり抗原に対する免疫反応を記憶します。また、獲得免疫系には、B細胞による抗体産生(液性免疫)とヘルパーT細胞や細胞障害性T細胞(CTL: Cytotoxic T Lymphocyte)による細胞性免疫の二つが存在します。

注6)IgA:
外分泌液中で最も重要な免疫グロブリンで、唾液、涙、鼻汁、乳汁、消化液などに存在し、感染防御や食物アレルギーの予防に関与しています。主として小腸粘膜、気道粘膜で産生される血漿蛋白です。

注7)TH1細胞:
ヘルパーT細胞の一つ。主にIFN-γを産生し、細胞性免疫に関わり細胞内寄生菌に対する防御や腫瘍に対する免疫応答に重要な働きをします。

注8)TH-17細胞:
最近発見された新たなヘルパーT細胞集団で、IL-17を産生する。自己免疫疾患の発症と密接に関わると言われています。

Article

 

<お問い合わせ先>

審良 静男(あきら しずお)
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 拠点長
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-1
Tel: 06-6879-8303 Fax: 06-6879-8305
E-mail:sakira@biken.osaka-u.ac.jp


植松 智(うえまつ さとし)
大阪大学 免疫学フロンテイア研究センター 自然免疫学研究室 助教
大阪大学 微生物病研究所 自然免疫学分野 助教
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3-1
Tel: 06-6879-8301 Fax: 06-6879-8301
E-mail:uemattsu@biken.osaka-u.ac.jp

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