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インフルエンザワクチンの作用メカニズムを解明 (石井健教授らが Science Translational Medicine に掲載)

<本研究の概要>

インフルエンザワクチンはその形態によって弱毒化生ワクチン、不活化全粒子ワクチン、不活化スプリットワクチンの3種類に分類することができます。弱毒化生ワクチンは米国のみで認可されており、日本では不活化スプリットワクチンのみが使用されています。全粒子ワクチンは1970年代まで日本でも使用されていましたが、発熱などの副反応が問題視され、副反応の少ないとされるスプリットワクチンに移行しました。ただ、スプリットワクチンの有効性は低いことも指摘されており、最近のH5N1鳥インフルエンザウイルスに対応したプレパンデミックワクチンの開発は、有効性を高めるために全粒子ワクチンにさらにアジュバントが加えられました。
昨今の新型インフルエンザウイルスの流行やそのワクチン行政の動向からもインフルエンザワクチンの適切な開発、使用方法の判断材料としての科学的エビデンスが不足していることが指摘されています。しかしながら、インフルエンザワクチンの作用機序に関する詳細な検討、とくにアジュバント成分の分子レベルでのメカニズム解明はなされていませんでした。
本研究では、上述の異なる作り方で、成分も作用も異なる3種類のインフルエンザワクチンがどのようにして認識されて自然免疫システムを活性化し、ワクチンの効果を誘導しているのか、マウスやヒトの実験系を用いて詳細に解析しました。


<本研究の内容>

これまでインフルエンザウイルスの認識に関わる様々な自然免疫応答が研究され、免疫細胞の表面や中には、Toll-like receptor(TLR)7(トル様受容体7とも), Retinoic acid inducible gene-I(RIG-Iと略しますが、正式な日本語訳はありません), ある種のNod-like receptor(NLRと略しますが、これも正確な日本語訳はないとおもいます)の3つの受容体(いわゆるセンサー)がインフルエンザウイルスの成分を特異的に認識できることが知られていました。
今回は我々は、それらの受容体の作用をそれぞれ欠損したマウスを用いて、上記3種類のワクチンを投与してそのワクチン効果(すなわちインフルエンザワクチン抗原に対する免疫反応が起きているか、抗体の量を測ったり、細胞の活性化を測って判断する)を比較しました。
その結果、生ワクチン、(不活化)全粒子ワクチンにはTLR7を特異的に活性化する内因性のアジュバント成分があることがわかったのですが、その一方で、日本で季節性、新型インフルエンザのワクチンとして使用されているスプリットワクチンでは自然免疫の活性化がほとんど見られず、ワクチン効果も低いことがわかりました(図)。さらにマウスにおいてはスプリットワクチンのみの投与ではインフルエンザウイルスの感染を防ぐことができずマウスは死んでしまいました。人ではほとんどの人がインフルエンザに感染歴があるためスプリットワクチンではすでにある免疫を再活性して効果を発揮していることも人の血液を使った実験で判明しました。
ところが同じ不活化ワクチンでも、全粒子ワクチンでは中に含まれているウイルスの核酸(RNA)がTLR7をよく活性化して、それがアジュバント効果を発揮することでワクチンの効果もスプリットワクチンより高いことがわかりました。さらにその効果は、マウスでも、人でも血液や組織にまれにあることが知られている形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid DC; pDC)がTLR7やTLR9をたくさん持っていて、こうウイルス作用を持つことで知られるI型インターフェロンという分子を産生することによってワクチンの効果が誘導されていることが判明したのです。人の血液を使った実験でも同様に形質細胞様樹状細胞がインフルエンザワクチンに反応してI型インターフェロンを産生させることも判明しました。
そこで最後にこれらの成果を応用して、実際にスプリットワクチンに同じようにpDCを活性化できるTLR9のリガンド(新規開発中のDNAアジュバント)を加えることで全粒子ワクチンと同じレベルまでワクチンの効果が増強されることがわかりました。


2010-0404_Ishii_ScienceTM.jpg <本研究成果の意義と今後の展開>

以上の結果から、実験で用いたマウスの様にこれまでにインフルエンザウイルスにかかったことの無いような乳幼児などに対しては、少なくともpDCの活性化やそれに伴うI型インターフェロンの産生がみられる全粒子ワクチンやアジュバントを入れたワクチンが現在使用されているスプリットワクチンより有効である可能性が高いといえます。ただし、現在使われているスプリットワクチンは効果がないわけではなく、すでに何らかの状況で暴露された成人では自然免疫の活性化を伴わないワクチンでも十分な効果発現を認める可能性が高いこともわかりました。また、自然免疫を活性化するアジュバントを使えばさらに有効なワクチンを開発できるということも確認されました。
今後このような分子から生体のレベルにおいてワクチンの作用機序を正確に解明していくことは副作用の少なく安全で、かつ有効性が高い次世代のワクチン開発や、ワクチン行政の判断基準において非常に重要であるといえるでしょう。



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石井健 研究室


<お問い合わせ先>

石井 健(いしい けん)
ワクチン学研究室
大阪大学免疫学フロンティア研究センター (IFReC)
TEL: 06-6879-8303
kenishii@biken.osaka-u.ac.jp

医薬基盤研究所・アジュバント開発プロジェクトリーダー
TEL: 072-641-8043
kenishii@nibio.go.jp

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